北朝鮮の反体制短編集「告発」

小説というのは世界中のいたるところに存在する。朝鮮民主主義人民共和国であっても例外ではない,と聞いたら驚くだろうか。しかも,現体制に反対する内容なのだ。

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著者について

著者は「パンジ」という筆名を使っている。本名で出版すると,当局に特定される可能性があるためだ。パンジとは朝鮮語でホタルを意味しているらしい。

反体制的な小説を書いて食べていけるわけではないだろうし,本業は何をしているのだろうか。これだけ完成された小説を,何の教育もなしに書けるのだろうか。そう思って冒頭の「推薦の辞」を読むと,なんとパンジ氏は本業でも作家をしているらしい。むろん国内で発表するものは,体制を賛美する内容でなくてはならないだろう。

北朝鮮の現実・日本との比較

収録されている小説が現実を基調として書かれたのであれば,北朝鮮といえどそれほど血なまぐさいところではない――むろん,普通の都市に於いては,だが。

しかしながら,北朝鮮では生活のあらゆる面で不自由がつきまとう。何をするにも,政治的なことに束縛されてしまうのだ。著者パンジ氏は,これをたくみに描いている。

拷問とか処刑とかを期待しているのなら,おすすめはできない。


この短編集は,日本海を隔てた遠い国の話だと思って読むべきではない。少なくとも,私はこれを日本への警告として受けとっている。

むろん私は,現在の日本が北朝鮮ほど不自由な国であるというつもりはない。しかし過去にそうであったかもしれないし,このままだと第二の北朝鮮になってしまうかもしれない

収録されている短編

この本には7つの短編小説が収録されているが,そのなかから特に印象に残ったものを,2作品紹介したい。

幽霊の都市

なぜ私がこの作品を印象に残したかといえば,私の母親が主人公の韓京姫に似ているからである。

首都平壌に住む韓京姫 (ハン・キョンヒ)の子,明植はマルクスの肖像画を「おばけ」と言って怖がる。しまいには金日成の肖像画までも,「おばけ」に見えてしまう。

そこで当局はどのように対処するのだろうか。間違っても拷問や処刑ではない。どうなるかは,読んでみればわかる。

目と鼻が万里

この作品も,印象に残した理由がある。そう,それは移動の制限を題材にしているからである。
移動の制限――ここ2年で,ずいぶん身近なものになったのではないだろうか。そう,コロナ禍だ。

北朝鮮では,国内旅行にも許可証が必要である。コロナ禍に於いては,県境を越えるのに許可証が必要になっても仕方ない,とは思ったことがある。しかしこの作品が書かれたのは2020年ではなく,1993年であることに留意願いたい。